陰謀のための結婚

「そうやって私を甘やかすのはやめてください。私はただ旅行を楽しんでいただけで」

「俺ひとりで行っていたら、客の年齢層や、料理の質、娯楽の数など、目で見える数値にばかりに気を取られていただろう」

 彼は私の頬に触れ、再び自分へ視線を向けさせた。その甘い眼差しに囚われる。

「温泉卵を作っているのに、待っている間に足湯をしてジェラートを食べようとは思わない」

「食い意地が張っていると言いたいんですね?」

 からかわれているのに、視線は甘い。そのせいで不貞腐れた声も格好がつかない。

「細いのに欲張りだなあとは思ったよ。食べ歩きは色々な味を楽しみたいから、小さくていいとか。企画を決めるときにどうしたら、きみが笑顔になるかと考えた」

 頬に添えられている指先が顔のラインをなぞり、肩を縮める。

「俺には香澄ちゃん、きみが必要だ」

 真っ直ぐに見つめられてから「よく覚えておいて」と付け加え、彼の手は離れていった。

 彼に触れられていた頬は、熱を持って火照っている。ほんの少し彼に触れただけで、もっと近づきたいと思ってしまう。気持ちも体も全て。
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