陰謀のための結婚

 美しいがゆえに父に見初められ、波乱の人生を歩んだ母は、娘の私には同じ思いをしてほしくないと切に願っているのが伝わってくる。

 私も同じ思いだった。そもそも年頃になっても生理が来ない私は、結婚も子どもも望んではいけないのだと心に刻んでいた。

 それが……。

「いけない。こんな時間。仕事に遅れちゃう」

 壁掛け時計の時刻は、七時半を指している。いつもなら出る時間だ。

「片付けはお母さんがやるから、香澄は仕事に行きなさい」

「ありがとう。お母さんこそ無理しないでね」

 療養中の母をあまり働かせたくはないけれど、「ゆっくりやるから大丈夫よ」と言う母に甘え、朝の片付けはお願いして会社に向かった。
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