陰謀のための結婚
「香澄さん」
名を呼ばれ、直輝さんを見つめる。彼は真面目な顔をして口を開いた。
「こんな男と結婚を決意して後悔してない?」
直輝さんの真っ直ぐな眼差しに、私は嘘偽りのない返事をした。
「驚くことはありますけど、私への思い遣りや愛情を感じていますから」
直輝さんが言うように言葉は足りないかもしれない。それでも智史さんからの愛情は、痛いほど感じている。
「そう」
直輝さんは目を伏せ、口角を上げて続けた。
「智史さんが早くふたりにさせろと無言の圧力をかけてくるので、俺、帰ります」
「え?」
隣にいる智史さんを見上げると、「ああ、そうしてくれ」と悪びれる様子もなく虫でも追い払うようにシッシッと手を振っている。
「名ばかりの婚約者がいくらいようと、どんな女が現れようと、香澄さんは堂々としていればいいから」
意味深な言葉を残し、直輝さんは帰っていった。