陰謀のための結婚

 私にとっては嵐のような直輝さんが去り、見送ったままぼんやりと玄関を扉を見つめ立ち尽くす。

「名ばかりの婚約者が気になる?」

 ふんわりと腕を回され、智史さんを見上げる。

「それは、その」

 彼の愛情を信じてはいるけれど、気にならないわけではない。

「あいつはたぶん美咲(みさき)のことを言ってるんだと思う」

「美咲、さん」

 不用意にまた名前を知らされ、胸がざわつく。

「初めて見る表情を引き出した直輝には感謝すべきか」

 意地悪な笑みを浮かべ、智史さんは鼻に軽く噛み付いてから「香澄ちゃんに妬かれるとニヤけて困る」とこぼした。

「婚約者がいらっしゃったのは仕方ないと思いますが、名前までは知りたくありませんでした」

 拗ねた声が出て、彼の体に顔を埋める。
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