陰謀のための結婚

 落ち着かない胸を抱えながら、楓の間に戻る。深呼吸をしてから襖を開けると、部屋には布団が敷かれていて、余計に鼓動を速めさせた。

 二組並べて敷かれている布団の片方に、智史さんは横になっていた。壁側を向いているため、表情はわからない。

 震えそうになりながら、もう一方の布団の隅に膝を付き正座する。

「智史さん」

 呼びかける声が震える。

 しばらく待っても返事はない。

「あの、智史さん?」

 やはり返事はない。

 戻ってくるのが遅くて、眠ってしまった?

 想像していなかった状況に、力が抜けてその場に横になる。横になったために少し近づいた彼の後ろ姿を見つめ、耳を澄ますと規則正しい寝息が聞こえた。

「ハハ。そりゃお疲れだよね。うん」

 ほぼ一日中運転していた彼。

 眠っている彼の後ろ姿を見つめているだけで、胸がキュンと鳴いて苦笑する。

 旅館の浴衣を着ている彼の後ろ姿は、それだけで色香が漂っていた。

「男性なのにうなじが色っぽいなんて、罪だよ」

 誰に言うともなくぼやいて、私も布団に入って横になる。

 緊張の糸が切れたせいか、あんなに車で寝たのに、目を閉じるとすぐに眠っていた。
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