陰謀のための結婚

「お陰で初心な反応の謎は解けたよ」

 彼は柔らかく言ったあと、「少し浮かれてる」と小さくこぼした。

 意味をはかり兼ねていると、彼は言いにくそうに言葉を濁す。

「俺しか知らないんだ、とか、俺だから許してくれたのかなとか、なんていうか、ニヤけて困る」

 ハンドルに腕を置き、頭に腕を回す智史さんは顔まで覆おうと腕を動かして、クラクションが鳴った。

 軽い音だったとはいえ、驚いてふたりで顔を見合わせて笑う。

「幸せだなあと思う。だからかな。帰したくなくなるよ。東京に帰ったら、もう会えなくなってしまいそうで」

 手が伸びて、頬にそっと触れる。

「こんなに近くにいるのに、遠く感じる」

 切なくなる声色に、心が揺さぶられる。

「いや、うん。帰ろう。お母さんが心配するね」

 そこから少しだけ母の話をした。
 ただ、肝心な話はしないまま。

 自分がこんなにも意気地無しで、ずるい人間だとは思わなかった。嘘でもいいから、彼の側にいたかった。
< 71 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop