陰謀のための結婚
「お陰で初心な反応の謎は解けたよ」
彼は柔らかく言ったあと、「少し浮かれてる」と小さくこぼした。
意味をはかり兼ねていると、彼は言いにくそうに言葉を濁す。
「俺しか知らないんだ、とか、俺だから許してくれたのかなとか、なんていうか、ニヤけて困る」
ハンドルに腕を置き、頭に腕を回す智史さんは顔まで覆おうと腕を動かして、クラクションが鳴った。
軽い音だったとはいえ、驚いてふたりで顔を見合わせて笑う。
「幸せだなあと思う。だからかな。帰したくなくなるよ。東京に帰ったら、もう会えなくなってしまいそうで」
手が伸びて、頬にそっと触れる。
「こんなに近くにいるのに、遠く感じる」
切なくなる声色に、心が揺さぶられる。
「いや、うん。帰ろう。お母さんが心配するね」
そこから少しだけ母の話をした。
ただ、肝心な話はしないまま。
自分がこんなにも意気地無しで、ずるい人間だとは思わなかった。嘘でもいいから、彼の側にいたかった。