陰謀のための結婚
「本当にいいの? アパートまで送るよ」
母が病院で検査入院をしていると話し、病院の前に来ていた。智史さんは、母の退院手続きが終わるまで待っていて、母も乗せてアパートまで送ってくれると言う。
「智史さんに会ったら、びっくりさせてしまいますから」
こんなに素敵な人を紹介したら、もしかしたら母も喜ぶかもしれない。けれど別れが決まっている彼を紹介できるほど、肝は据わっていない。
「そうだね。紹介できるくらいの信用と好意を、まずは香澄ちゃんから得られないとね」
そう言って彼は鼻に噛み付いた。
「キャッ」
「暗い顔してる。俺と別れるのが、そんなに寂しい?」
戯けて言う彼に、笑みをこぼす。しかしその笑みも、彼の続けた言葉に凍りついた。
「本当に香澄ちゃんは、三矢社長から大切に思われているね」
言葉がスムーズに入ってこなくて、何度か頭の中で繰り返す。
そんなわけない。じわじわと怒りすら湧いてくるけれど、智史さんがどこまで事情を知っているのかわからない。
今まで離れて暮らしていたが、大切な娘なのだと、心にもない言葉を平然と智史さんに言っていそうだ。
「香澄ちゃんが思いっきり旅行を楽しめたのは、百万渡されたと聞いたからだろう?」
図星を突かれてドキリとする。