もふもふ、はじめました。

合鍵

 私は恐る恐る、ロック解除の番号を打ち込んだ。

 初めて来た時は焦ってて全く見もしなかったけれど、吉住課長の家はどこをどう見ても単身用ではなく、分譲のタワーマンションっぽく見える。凄く駅に近いし交通の便も良い。

 笑いかけてくれたコンシェルジュっぽい人に、小庶民らしく愛想笑いして大きなエレベーターに乗り込む。

 うちの会社のお給料だけで、こんなマンションに入れる訳ないよね……うん、仮に私の倍貰っていたとしても無理だと思う。副収入でもあるのかな。

 部屋番号を確認してから、カード型の鍵を翳すと電子音がしてドアが開いた。

 着替えとお泊まりグッズが入ったボストンバッグと、来る時に教えられていた近くのスーパーで買い物をした袋を持って、私は部屋へと入る。

 今日は数少ないレパートリーの内から、オムライスだ。こんなすごい部屋だと思わなくて、ついつい気後れしてしまう。

「お邪魔します」

 誰もいないってわかっているけれど、なんとなく自分の部屋じゃないから言ってしまった。
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