もふもふ、はじめました。

フェロモン

「え? 岸、もう告っちゃったの? 流石に待てが、出来なさすぎでしょ?」

 そこらへん全部同僚だらけの社食で、全然声のボリュームを絞るつもりのない絵里に私は口に人差し指を立てた。

 私の前にあるトレイの上には、今日はハンバーグ定食だ。手ごねで美味しいんだよね。この東堂商事はグルメな会長のおかげで、社食にはかなり力を入れている。

「しーっ! 声大きいよ、絵里。岸くん本人だって居るかもしれないのに」

「あの子。完全に千世に、ベタ惚れだよ~、うちの庶務課に居た時は千世が書類持ってきたら、そわそわして仕事にならなかったんだから。彼と別れたらしいよって言った時の喜んだ顔、見せたかったわ」

 絵里はうどんをすすりながら、興味なさそうに話す。ちなみに絵里は五歳年上のシステム課の主任と付き合っている。

「なんか……匂いが好きって言われた。ちょっと複雑」

 私の言葉に、ふっと絵里は吹き出しながら笑った。
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