家出少女と恋愛小説家
 翌日の昼間、志保美は自室で佐伯の本を読んでいると、居間の方で佐伯と他の誰かがいる気配がした。居間から佐伯と女性の声が聞こえてくる。本を置いて忍び足でそろりそろりと居間の方に行ってみると、佐伯と女性が向かい合ってソファに座っていた。長い黒髪に赤い口紅が印象的なきれいな女性だった。女性はおもむろに立ち上がり、佐伯の隣に座った。やけに艶めかしくベタベタしている。

「ねえ先生?今回の原稿が上がったら、ご飯に行きません?」

「君とか?」

「私、いいお店見つけたんです。おいしいお酒もありますよ」

 あまりの近さに志保美は目を見張った。女性は佐伯の肩に手を乗せ頬に顔を寄せる。キスでもする気なのかと思う近さだ。女性のあからさまな誘惑に対して、佐伯は意に介していないようだ。その態度にも志保美は不思議に思う。

 志保美は部屋の入口でふたりの様子を見ていたのだが、少し前のめりになったときに床がきしむ音がした。その音にふたりが同時にこちらを振り向く。

「こ、こんにちは」

 志保美は苦し紛れの挨拶をした。

「こんにちは。って、佐伯先生、この子…」

「家出少女をかくまってる」

「先生、未成年誘拐罪ですよ!?」

「彼女は18だ」

 成人年齢が引き下げられたので18歳はもう未成年ではない。

「でも、こんなこと外に知られたら世間体が悪いですよ。警察に届け出た方が」

「別に悪いことはしていないだろ」

「それはそうでしょうけど、先生はロリコンだの変態だの思われてもいいんですか?彼女が未成年ではないとはいえ、下手したら犯罪ですよ。先生マスコミ嫌いですよね?先生が大きなリスクを冒してるって自覚ありますか?」

「公園の遊具の中で大雨にさらされていたんだぞ。放っておけるわけないだろ」

「それはそうとしても、すぐにでも警察に…」

「今日、家に帰りますから」

 佐伯に迷惑掛けていると罪悪感に駆られ、志保美はふたりの会話に割って入るようにそう言った。
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