家出少女と恋愛小説家
「そうした方がいいですよ。ご家族も心配されてるでしょうし。じゃあ、先生、さっきのこと考えておいてくださいね。失礼します」

 女性はバッグを携えて出て行った。

「さっきの方は?」

「担当編集者だ。編集者としては優秀なんだが、あの距離感には参る」

「満更でもなさそうでしたけど」

「俺にはただの担当だ。いい加減担当を替えてもらいたい」

「ふーん」

「本当に帰るのか?」

「はい。昨日、佐伯さんに言われて目が覚めましたし、いつまでも佐伯さんに迷惑を掛けるわけにはいきませんから。母に私の夢を認めてもらえるように頑張ります!」

「そうか」

「でも帰る前に、読みかけの佐伯さんの本読み終わってからでもいいですか?」

「はっ。好きにしな」

 佐伯は、にっと笑って志保美の頭をくしゃりと撫でた。

 夕方になり、佐伯が書斎で原稿を書いていると、志保美が書斎に入ってきた。本を抱いて目をキラキラと輝かせるその姿に佐伯も満足気である。

「よかったか?」

「とっても!」

「そうか」

「じゃあ、私帰りますね」

「どうやって帰るの?」

「電車で帰ります」

「駅まで送るよ」

「助かります。歩いて来たので、実はここがどこかよく分からないんです」
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