腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる

「本人は出てくると困ると言っていたし、私もそう思っていました。でも……なんだか、それは……うまく言えないけど、少し違うような気がします」
「そう。キミは夜の人格の『彼』に会ったことがあるんだね」
「え? あ、はい……。むしろほとんど私の前だけで」
「そう……。そっか」

 工藤先生は何度か頷いた。
 その時、私は工藤先生の発言の中で引っ掛かりを覚える。

「工藤先生。……私、その人が男の人だって言いましたか?」
「そうだな……」

 そう言って先生は曖昧に微笑む。
 それからそれには答えずに続けた。

「大丈夫だよ、君がいれば。昼の彼もそうだけど、夜の彼もよく知ってみて。どんなときにどんな顔をして怒るのか、どんなときにどんな顔で笑うのか。そうしたら、きっと事態は好転するよ」

 知るだけなら……できる気がするけど……。
 そんなことでいいの?

「それだけですか?」
「うん、それだけで大丈夫」

 工藤先生が力強く頷く。
 その様子に背中を押された気がした。

「不思議です。工藤先生に大丈夫って言われたらそんな気がしてきた」
「ふふ、何かあれば連絡頂戴。大抵は病院にいるし」
「はい」

 工藤先生は自分の名刺を渡してくれる。
 私はそれを受け取ると、今週ずっと重たかった気分が急に軽くなった気がした。
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