腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる

「まぁ、これまでも何年もかかったし、これからもまだ道のりは遠そうだけど……」

 私がぽつりとつぶやいたとき、

「もも。こんな時間まで仕事?」

と声が聞こえて、振り向くと幼馴染の深海斗真が立っていた。
 驚きもせずに返事をする。

「斗真は?」
「ばあちゃんに届け物。面会時間すぎてるから渡してもらうだけ」
「そっか、おばあさん、入院されてるもんね」

 斗真のおばあちゃんは入退院を繰り返している。
 歳も歳だし心配だけど、一人で家にいられるより安心だと以前斗真は言っていた。

 斗真は頷くと、言う。

「もも、メシは? 食った?」
「まだ」
「なら飯食いに行こうぜ。そこの居酒屋、深夜まで開いてるだろ」
「うん、行こうかな」

 私が頷くと、よっしゃ、と斗真は笑う。

 私はふと、外で食事するときはリク先生に連絡するように言われてたことを思い出したけど、先生はきっと忙しいだろうし、そんな連絡で煩わせるのも気がひけるので連絡しないことを当たり前のように決めた。
 昨日、病院長と美奈さんで食事したことだって言ってないし。


 とにかく、今日は、なんだかずっとモヤモヤしてて飲みたい気分だった。
 斗真と会ったのも、半年前の私の結婚式以来だ。

 それに斗真は、今、社会福祉事務所の職員で、仕事でもかかわりが多く、私がまだわかっていないことも気軽になんでも聞けることが嬉しい存在でもあるのだ。
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