腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる
***

「たらいまぁ……」

 家に入るなり呟く。
 誰もいない家だけど、つい、そう言うのが癖になっていた。

 しかし、今日はいつもと違った。

 玄関に丁寧に並んだ先生の靴。
 見上げた時には、そこにリク先生が立っていた。

「あれぇ、先生……おかえりなさい」
「もも、おかえり」
「はい、たらいまれすっ」

 思わず嬉しくなって、ニヘラ、と笑うと、先生を見上げる。
 酔っているせいで、勢いのまま、先生に抱き着いた。

「本物の先生だぁ。先生の匂い、好き」

 ずっとこうしたかったの。
 先生はいつも通り微笑んで、私を子どもみたいに抱き上げると、リビングのソファまで運んで座らせて、お水を持ってきてくれた。
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