腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる

 私がハンドタオルを渡すと、斗真は口元を拭いて、息を吐いて口を開く。

「……そうか。ま、その成果がいつか披露できるといいな」
「うん」

 私が頷くと、斗真は私の髪をくしゃ、と撫でる。

「まぁ、お前の努力は昔からすごかったから大丈夫。医療ソーシャルワーカーになるって決めて、大学行ってから卒業時に一気に社会福祉士と精神保健福祉士両方取得したろ。授業も、試験も大変だったのにさ」
「勉強みたいに、夫婦のことも努力さえすれば結果がついてくればいいのにね」

 私が呟くと、「恋愛や結婚はなぁ……相手がいてこそだからな。きちんと話し合ったほうがいいんじゃないか」と斗真は言う。

 斗真は、昔から私とリク先生のことをよく知っていた。
 斗真に話しているだけで考えがまとまってくるように感じた。

―――やっぱり先生ときちんと話したほうがいいよね。子どものことも。

 私は決心すると立ち上がる。

「やっぱり病院でプライベートな話をするのは難しいし、先生がうちに帰ってきたらちゃんと話すことにする!」
「帰ってきたらちゃんとって……。お前、夜起きてられなかったよな……。高校の修学旅行でもいの一番に寝てたって女子たちにからかわれてたろ」
「頑張る。それにいいこと思いついたの! 先生が帰ってきたら、絶対に起きられる方法!」

 私は、ふん、と鼻息を荒くして、空を見上げた。

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