甘い支配の始まり《マンガ原作賞優秀作品》
俺の背中に回っていた腕が、脇腹辺りを軽く叩く…ジュッ…紫乃の口内に少し溜まったどちらのものかわからない唾液を吸ってから
「ん…」
チュッと音を立てて唇を離すと
「…暑いっ…」
タオルケットと俺に包まれた紫乃が苦しそうに言った。
「そうか…水飲む?」
彼女からタオルケットを剥ぎ取り、ぐっと力を入れて縦に抱き上げると
「…壱…」
紫乃が何か言いたげだ。
「何?」
キッチンへと歩きながら紫乃の耳たぶのほくろをチロッと舐める。
「あの…こうして抱き上げるの…」
「うん?嫌?」
「…嫌っていうか歩ける…それよりね…ぐいって一気に抱き上げられると…今日みたいな日は高低差で頭痛を感じる…」
「ごめん…気圧の変化だな…悪い、紫乃…気がつかなかった。ゆっくり体を起こす、ゆっくり立ち上がるのが基本な…覚えた」
「私が自分で動くから大丈夫だけど…」
「なんで俺がいるのに紫乃が自分で動く?こうして一緒でいいだろ?片手離すぞ。掴まれ」
グラスに水を入れてそのまま渡すと降りないのかという視線を感じたが頬へ唇を寄せる。すると紫乃は諦めて抱き上げられたままコクコクと水を飲んだ。そのグラスに再び水を入れて俺も飲み干すと
「もう一度ソファーで休んで。俺少し仕事するから。ナッツだけで腹減ってないか?何か食う?」
「いらない。少し…眠れるかも…」
「ベッドに入る?」
「…ソファー」
ゆっくり歩いてソファーに横にさせると、紫乃はすぐに眠った。俺の隣で安心できたならいい。