甘い支配の始まり《マンガ原作賞優秀作品》
花園家
午後1時から2時の講演会を終えて、紫乃の実家へと向かう。彼女の実家は京都にあるが京都市内ではなく大阪寄りの町。大阪市内へも京都市内へも電車に30分から40分乗ると行けるという。最寄り駅から5分だと聞いているので住所を入力したスマホのマップ片手に歩く。
紫乃は朝からここへ来ている。午後には彼女の兄と姉も来ているはずだ。7月に完全に紫乃のアパートから撤退した時点で、俺たちが一緒に住んでいることはご両親には報告済みで了承ももらったが…どうも話を聞いていると兄がシスコン気味じゃないかと思う節がある。
ここか…二階建ての住宅を見上げるとバスタオルが2枚、同じ長さに揃えて干してあるようで、その几帳面さに紫乃と同じだと口角が上がった。ピンポーン…誰が出る?応答はなく…カチャっとドアが解錠される音が聞こえると、紫乃をキリッとさせたような女性が
「長谷川さん?どうぞ、お待ちしてました」
紫乃と似た声で言う。姉か…挨拶はあとだな。
「失礼します」
玄関を一歩入ったところで
「壱、お疲れ様。迷わなかった?」
2匹のチワワを抱いて歩いて来る紫乃に迎えられる。
「ただいま、紫乃。全く問題なし」
「あれぇ?あんたら吠えへんの?」
姉が紫乃の腕の中のチワワたちに言っている。
「ほんまやな…」
そう言う紫乃と俺が並んでも吠える様子はない。
「長谷川さんと紫乃がおんなじ匂いなんやわ。こっち、どうぞ」