甘い支配の始まり《マンガ原作賞優秀作品》
「ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。長谷川壱と申します」
「長谷川さん、今日はお仕事してきはったんやね?ご飯は食べはった?」
「はい。少し早めの昼を食べました」
「ほな、夏乃と紫乃、珈琲入れてきて」
母親に言われて紫乃は俺を心配そうに見たが
「うん?大丈夫だ。うまい珈琲を頼む」
と彼女の背中を擦るとコクンと頷きゆっくりと立ち上がった。すでにチワワたちはケージの中だ。
「紫乃の父です。忙しいところよく来てくれはった」
「いえ、遅いくらいで申し訳なく思っています」
「紫乃から話は聞いてます。お世話になりっぱなしみたいで…ありがとうございます」
紫乃の母親が頭を下げると同時に
「一緒に住んでるって言ったと思えば婚約って…全て事後報告ですか?」
兄であろう男の声がした。
「正也。言い方っていうものがあるやろ。今、挨拶してくれはったばっかりやんか」
「後で聞いても一緒や。長谷川さんはこんなに早急に婚約して紫乃を何か利用しようとしてるんと違いますか?」
やましいことはない。予想通りの展開でもある。
「利用とはどういうことでしょう?思い当たることは何一つありませんが?」