パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
 そんなことを言われるとは思っていなかったらしく、紬希はふっと顔を上げた。
 その紬希に対して、いつもと同じように貴堂はにこりと笑う。
 皆が思わず安心してしまうような笑顔だ。

「あ……雪真(ゆきまさ)さんが、優しいからだと思います」
「そうだね、花小路くんは優しい人だ。君がシャツを作った人?」

 紬希は雪真がそんな話をしているとは思わなくて、とても戸惑った。
 けれど、そこまで雪真が信頼している人なのだろうと思い直す。

「はい……」
「花小路くんが他のシャツは着られない、と言って褒めていたよ」
「そうなんですか⁉︎」

 雪真はいつもとびきりの笑顔でありがとうと言ってくれるし、着心地が良くてとても好きだと言ってくれているけれど、こんな風に上司にまで言っているとは、紬希は思わなかった。

 思いがけなく第三者に褒められることがこんなに嬉しいことだと、紬希は思わなかったのだ。

「嬉しい」
 嬉しい、と言った紬希にふと笑いかけて、貴堂は側にいた雪真に声を掛ける。

「ああ、ごめんね、足止めしてしまった。花小路くんも申し訳ない。お疲れ様、明日はゆっくりして」
「はい。ありがとうございます。貴堂キャプテンも」
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