見合いで契約婚した幼馴染が、何故か激しい執着愛を向けてくるのですが!

 そこでようやく、場所が病院だと思い出したような、我に返った表情を稔くんは見せた。ちらりと後ろを振り返り、何事かと注目している通行人の方々に、バツが悪そうに頭を下げる。

「……失礼、お騒がせしました」

 呟くように言った後、彼はやっと室内に足を踏み入れた。引き戸が閉まった直後、一瞬起きた黄色いざわめきについては、深く考えないことにする。

 稔くんは出勤前に見たのと同じ、スーツ姿にコートだった。きっと職場から直接来たのだろう。そこで初めて、今の時間を把握していないことに気づいた。

「今って、何時?」

 ベッド横にあった腰掛け椅子を探し当て、座ったタイミングで、稔くんに尋ねる。腕時計を見ながら彼は「もうすぐ午後1時。てか開口一番にそれ?」と答えた。

「だって気になって、自分のスマホどこかわかんないし……ていうか、開口一番でもないし」
「ベッドの下の荷物カゴに入ってるけど。これやろ」
「あ、うん。それ──よかった、スマホ入ってる」

 通勤用にしているカバンから取り出したスマホを見て、ぎょっとする。着信履歴とメッセージがそれぞれ20件以上。すべて職場の上司や同僚の誰かだ。無断欠勤と思われているのかも、と思い至り慌てて電話しようとした手を、稔くんに止められた。

「はるちゃんの会社には連絡しといたから。事故に遭って入院したからしばらく休みますって」

 ついさっきの動転ぶりが嘘のような、落ち着いた声でそう言う。
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