見合いで契約婚した幼馴染が、何故か激しい執着愛を向けてくるのですが!

「だから礼もいらないから、別に」

 そう言い置いて、稔くんはまた玄関に向かい、靴を履き始めた。

「え、どこか行くの?」
「思い出した仕事があるから、もっかい会社。悪いけど昼は適当にひとりで食べて」

 私が呆然としているうちに、稔くんはいつの間にか取ってきたカバンを提げて、振り返らずに出ていった。

 しばらく廊下に立ち尽くした後、我に返って、ドレスの箱を抱えてリビングダイニングに戻る。テーブルの上には、稔くんが持ち帰ってきた紙袋が置いてあった。
 中には、ベージュの正方形の箱。開けると美味しそうなカットケーキが2個、入っていた。もう一度紙袋を見ると、最近テレビやネットで話題になっている、高級パティスリーのロゴが書かれている。

「……一緒に食べるつもりで、買ってきてくれたの?」

 私の問いに答えてくれるはずの声の主は、今はいない。
 仕事を思い出したと言って、とんぼ返りに会社に戻ってしまった。

 ──いや、その理由が本当かどうかはわからない。
 私が同窓会の件を話さなかったことを、本当はものすごく不快に感じて、顔には出さないけどやっぱり怒ってしまったのかも。

 自分自身の忘れっぽさとうかつさを、人生で3本の指に入るほどにこの時、後悔した。
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