独占欲を秘めた御曹司が政略妻を再び愛に堕とすまで
瑠衣が晴臣に対して感情的になったことなどない。

いつも優しく微笑んでいるし、思い返してみても喧嘩をした覚えがない。

安定した情緒の穏やかな人柄。それが瑠衣だ。しかし。

『お前たち見合いだったもんな。恋愛とかそんな感じじゃないってことか』

瀬尾の声が蘇る。

確かに自分たちは形から入った夫婦だ。

日常生活の中で出会い自然と恋に落ちた、という訳じゃない。

(だからなのか? 俺に対しては穏やかな家族の情で、瀬尾に対しては激しい恋愛感情を感じていたからなのか?)

晴臣は既に瑠衣に対して、恋情を抱いていると言うのに。

おかげで瀬尾の挑発のような言葉にまんまとひっかかり、こんなに胸を焦がしている。

瀬尾がどんなつもりで瑠衣との関係を暴露したのか定かではないが、もし嫌がらせのようなものなのだとしたら効果は抜群だ。

晴臣はかなりのダメージを受けていた。


胸に渦巻くドロドロした感情をなんとかしたくて、次々に酒を煽っていたところ、声を掛けられた。


「あの、おひとりですか?」


カウンターに座る晴臣の隣のスツールに添うように佇んでいるのは若い女性だった。
< 26 / 108 >

この作品をシェア

pagetop