独占欲を秘めた御曹司が政略妻を再び愛に堕とすまで
アメリカの実業家ハワード氏は来日したとき社長自らアテンドする重要な取引相手だ。

よりによって彼の予約が入っているときにトラブルとは。
溜息をついたとき、今度はスマホが鳴りはじめる。

画面を確認すると神谷ホテルの社長を務める父からだった。

「はい」

『晴臣、急で悪いがハワード氏の接待を代わってくれ。詳細は秘書から連絡させる』

「……どういうことでしょうか?」

顔をひきつらせながら晴臣が尋ねると、最近耳が遠くなって来た父がやけに大きな声で言う。

『ちょっと腰をやってしまってな。これから医者に行ってくるから後は頼む』

任せたと答えてもいないのに通話は切れ、タイミングを見計らったように社長秘書がやって来た。

「神谷部長、社長からお話が有ったと思いますが、こちらが本日の予定です」

秘書が差し出すタブレットには、予約している店の詳細などが表示されている。

その後ろには晴臣の指示待ちの社員が控えていた。

(嘘だろ? 今日は結婚記念日で瑠衣が待ってるんだぞ? 俺はすぐ帰らなくちゃいけないんだ……)

初めて仕事を放棄したくなった。

こんな大事な日に帰宅しなかったら瑠衣を悲しませてしまうのではないだろうか。

(今すぐ帰りたい)
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