独占欲を秘めた御曹司が政略妻を再び愛に堕とすまで
「俺は瀬尾恭二と言います。この近くの神谷ホテルで課長職に就いています」

(えっ! 神谷ホテルって……)

唖然として瀬尾を見つめる。
彼は何を勘違いしたのか、瑠衣の反応を見てにっこりと微笑んで来る。

「若いのに課長だなんて優秀なんですね」

「いえいえ、運に恵まれていたんですよ。那々さんはどのような仕事を?」

「私は白藤総合登記事務所で、土地家屋調査士をしています」

何も知らない那々はあっさりと職場の情報を与えてしまった。

それ以上言わないでと言いたいが、瀬尾が居てはそうもいかない。

「へえ、瑠衣は意外なところに就職したな。てっきり前村で働いていると思ったんだけどな」

「……」

「瑠衣?」

黙ったままの瑠衣の顔を、那々が心配そうに覗き小声で囁く。

「どうしたの? 瑠衣らしくないけど」

瑠衣は小さな溜息を吐いた。

彼女の言う通り、いくら大嫌いな相手だからと言って、無視するのは駄目だ。

それに頑なな態度を続けていたら、瀬尾は瑠衣がまだあの時のことを引き摺っていると考えるだろう。

(それだけは嫌)

下らないプライドかもしれないけれど、瀬尾に弱いところを見せたくなかった。

あなたのことなど少しも引き摺っていないと思わせたい。
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