独占欲を秘めた御曹司が政略妻を再び愛に堕とすまで
「私も瀬尾さんが神谷ホテルで働いているとは思いませんでした」

質問の返事にはなっていないが、内心の動揺が声には出なくてほっとした。
瀬尾は瑠衣が口を開いたことで、満足そうに身を乗り出して来た。

「あれ言わなかったか? 第一志望の神谷ホテルの内定出たって」

「私は聞いた覚えがないですけど」

彼はとぼけているけれど、きっとわざと言わなかったのだ。

遊び相手に過ぎない瑠衣に対してプライベートの重要な点などを極力隠しておきたい。そんなところじゃないかと思う。

ただ前村と関わると言っていたのは本当だった。

(神谷ホテル東京にうちの料亭の支店が入っているから)

「思ったんだけど、神谷ホテルって瑠衣の旦那さんの会社じゃない?」

那々が独り言のような小さな声を、瀬尾は聞き逃さなかったようだ。

すぐに反応して、やけに機嫌が良さそうな顔で瑠衣を見つめる。

「瑠衣、晴臣と結婚したんだってな。聞いた時は驚いたよ」

「……夫と親しいの?」

それは完全に予想外だった。

結婚式に晴臣の友人が来ていたが瀬尾の姿は見当たらなかったし、晴臣の口から瀬尾の話題が出たこともない。

そのせいもあり、同じ会社だと聞いても、個人的に仲良くしているなんて思いもしなかったのだ。
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