愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)

「……それでも、私はアーベントに、あの恋心を返してあげたい。あれは、他人が(うば)って良いものではないわ」
 シャーリィはきっぱりと告げた。

「私……宝玉姫としての自覚が、まるで()りなかった。片恋姫の運命にばかり(とら)われて、この力の恐ろしさを、まるで分かっていなかったわ。他人の心を(あやつ)るって、時に、命や自由を奪うより、ずっとずっと非道(ひど)いことなのね」
 言いながら、シャーリィは精神世界で垣間(かいま)見た、アーベントの想いを思い出す。

「恋って、幸せなことばかりじゃない。(つら)いことも、痛いこともいっぱいある。だけど、それさえも全部ひっくるめて、その想いが生きる支えや人生の道しるべになったりするのね」
 言って、シャーリィはウィレスを見る。シャーリィもまた、ウィレスのために、宝玉姫としての、王女としての運命を生きようと決めた。
 たとえ恋を叶えることはできなくても、せめて、恋する相手の想いを叶えようと……。

「ねぇ、お兄様……。あの仮面舞踏会の夜に会ったのは、やっぱりお兄様なのでしょう?」
 シャーリィは起き上がり、ウィレスに歩み寄る。
 一度は目をつぶった真実に、改めて()み込むために。

「もう誤魔化(ごまか)されてはあげないわ。だってその瞳、あの夜に見たのと同じだもの」
 つまさき立ちして手を伸ばし、ウィレスの片目を(かく)す眼帯を、そっと(はず)そうとする。

 だが、ウィレスとシャーリィの身長差では、上手(うま)く眼帯の結び目に手が届かない。
 (はず)そうとして、上手く外せずにもたつくシャーリィに、ウィレスは(あきら)めたように吐息(といき)して、(みずか)ら眼帯を外した。
< 138 / 147 >

この作品をシェア

pagetop