夢見るだけじゃ終われない 〜恋と令嬢とカクテルと〜

『チャンスじゃないか、彼女の目の前で格好よくシェイカーを振って口説き落とせよ』

『仕事中にそんなことしないよ。ふざけたことを言ってると菜月(なつき)さんにチクるぞ』

『やめてくれ、胎教に悪い!』

 臣海はこの『KUONホテル』グループのCEOで、俺を7thアヴェニューのバーから引き抜いてきた男だ。

 今はホテル協会の会合のために1週間だけ単身ニューヨークに来ている。

 俺は去年2ndアヴェニューに日本酒バー『友(YOU)』を開店したため今は週に1日だけしかここで働いていないのだが、今日がその土曜日ということでCEOみずから会いに来てくれたというわけだ。

 ふと視線を感じて振り向くと、こちらを見ている彼女と目が合った。

 途端に彼女が頬を染めるのを見て、微かな期待が湧いてくる。

 ――俺を……見ていた?

 いや、違う。グラスが空になっている。
 彼女はオーダーをしたいだけなのだろう。
 
「もう一杯いかがですか?」
「もう少しだけアルコールが強めの……」

 少し考えてから、俺はワイングラスにクレーム・ド・カシスと冷やした白ワインを注ぐ。

 彼女のリクエストに合わせ、アルコール度数14度のキールにした。

 向こうのほうで臣海がニヤニヤしている。

 ――そうだよ、キールだよ! カクテル言葉は『最高のめぐり逢い』だよ。文句あるか!
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