夢見るだけじゃ終われない 〜恋と令嬢とカクテルと〜
次のオーダーを入れる彼女を嗜めつつも、俺はどんなカクテルにしようかと考える。
シェイカーに材料を入れて振っていると、またしても目線の端で臣海が肩を震わせている。
――シェイカーはたまたまだ! ついでに言うと、今作ってるのはバレンシアだ! カクテル言葉は『お気に入り』だ。気になってるアピールだ。どうだ、満足か!
もうあいつのことなど気にしていられない。
目の前の彼女に集中しよう。
彼女は呂律のまわらない口調で自分のことを語っていく。
自分の名前、年齢、『KUONホテル新宿』で働いていること。
そして家族の話題になったとき。
「ふふっ、あのね、じつは私、もうすぐ結婚するの」
「えっ……」
――結婚? 嘘だろ……
膨らみ始めていた期待が急速に萎んでいく。
そうか、これは結婚前のひとり旅だったのか……
だったらどうして泣いていたんだろう。マリッジブルーというやつなのか。
そんなことを考えてガッカリしていたところに彼女がとんでもないことを告げた。
なんと父親の会社と姉を救うために52歳でバツ3の男と結婚するのだという。
――はぁ!?