交際0日、冷徹御曹司に娶られて溺愛懐妊しました
「と、とにかく娘を追いかけますので。いったん失礼させていただきます」
その場にいるのもいたたまれないといった感じで、結愛の両親が手に手を取り合って部屋を出ていく。
これからホテルへ戻り、帰国の準備をしている彼女に会えたとしても、頑なな心を変えることはきっと無理だろう。土壇場で逃げる手段を選ぶくらいだから。この場にやすやすと連れ戻されてしまうくらいの弱い決意ではできないはずだ。
ふたりが去り、控室内が静けさに包まれる。新郎とその両親の視線は、自然と茉莉花に向けられた。
「この度は私の力不足で申し訳ありませんでした」
深く腰を折り、幸せなカップルを送り出せなかった不手際を詫びる。
「本当に由々しき事態だ」
顔を上げて見た新郎、吉鷹は言葉とは裏腹に爽やかな表情をしていた。まったく動じていないといってもいい。
(こんなときにどうしてそんなに平気な顔をしていられるの? まるで他人事みたい)