君が好きでたまらない!
君が好きでたまらない
 車に乗り込むと、新さんは私と目を合わさずに、「少しドライブしないか?」と言った。照れているのか、それとも怒っているのか、暗い車内ではよくわからない。そうして、夜の街をドライブしながら少し経った頃、ぽつぽつと新さんが語り始めた。

「君のことは、たぶん、一目惚れだったんだと思う」

 親同士が勝手に決めた政略結婚だと思っていた。だが、実際は、新さんがそれぞれの両親を説得して、縁談に持ち込んだそうだ。
 あまり覚えていないけれど、パーティで出会った私たちは少し会話をしたそうだ。その時の私の笑顔が忘れられなかった新さんは、その日のうちに私の父に結婚を申し込み、「十年経っても気持ちが変わらないならいい」と返され、律儀に十年待ったそう。

「じゅ、十年?!」

「ああ。お義父さんにも認めてもらえるように、父の会社を継いで大きくした。経済的にも君を、安心して任せてもらえるように」

 そして十年後、強引にお見合いし、結婚。無理矢理嫁いできてもらったので、初夜も無理に求めなかったとのこと。

「えぇ……」

「仕事の忙しさに言い訳をして、君に捨てられるのを恐れて向き合ってこなかった。別れたいといつ言われるのか、好きじゃないと捨てられないか、ずっと怖かった」

 だから、携帯にGPSを仕掛けたり、家のインターホンの画像情報をチェックしたりして、私に不貞の気配がないか常に監視していたとのこと。

「GPS……全く気づきませんでした」

「そうやって君のことを監視して、家に閉じ込めておけば、いつか俺のことを見てくれるんじゃないかって期待していた。そしたら、お義父さんの会社で君が働いていて。見たこともない服を着て、綺麗に化粧して。…焦ったよ」

「新さんが構ってくれないから、浮気してるんじゃないかと思って。姉の入知恵でハニートラップを自ら仕掛けようかと……」

「ははっ! じゃあ俺は見事に引っかかったのか。君が際どい服を着ていて放っておけないと思っていたらコーヒーをこぼしてしまって、君に火傷を負わせるところだった。悪かった」

「私こそ、試すようなことしてだまして、すみませんでした」

 気づくと高台にある駐車場に止まっていた。新さんは真剣なまなざしで私を見ている。

「十年も君を想って生きてきたから、君に対する執着心というか、独占欲が強くて……、君を苦しめそうで怖かった。この想いを君に伝えたら、君に嫌われるんじゃないかって。君が引いて、逃げてしまうことが怖かった」

 そうして恐る恐る、私の手を握った。嬉しい。私が浮気だと思っていたのは、全部誤解だった。そして予想以上に自分が愛されていることを知り、戸惑いもあるけれど、嬉しさが勝った。 
 新さんの手を握り返す。不安そうに私を見詰める彼の頬に勇気を出して触れると、とても嬉しそうにしてくれた。あぁ、こうしてずっと、貴方に触れたかった。貴方の心に触れたかった。

 仕事で家を空けてばかりだったのも、私の気持ちが離れているのを実感するのが怖かったかららしい。夜の誘いに乗ってしまえば、私をめちゃくちゃにしてしまいそうで怖かったと。聞いていて、どんどん怒りが湧いてくる。怖がってないで早く説明してほしかった。

「……悪かった」

「嫌われてると思ってました」

「愛している! ……愛してるんだ……」

 そう言うのも精一杯、照れて真っ赤になる新さんを見て、くすぐったい気持ちになる。貴方のそんな顔をずっと見たかった。

「じゃあ、名前で呼んでくれますか?」

「か、佳織が可愛すぎて気が狂いそうだった。やっぱり君を閉じ込めていたい」

 重い愛の告白も、いまはただただ嬉しい。私、おかしいのかな。

「また、キス、してくれる?」

「……うん」

 後で聞いたら、自宅に帰ったら私を監禁してしまいたくなるから、ドライブしたと言われて、さすがに引いた。
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