恋におちたとき
彼がこっそりとこちらを伺っている気配がする。意識しないって思えば思うほど、意識してしまう。まるでイタズラがバレた小学生が二人並んでお説教をくらっているみたいだ。そう連想したら余計におかしくなって、あとはもう笑いをこらえるのに必死だった。なんなの、もう。

 ◇

「あれ、おかしかったよな」

 二人きりになった途端、そう彼が切り出した。

 午前中に結婚式、お昼に披露宴を挙げた私達は、夕方前に友人達との二次会をした。ウエディングドレスのままだったので会のお開きと共にホテルに戻ってチェックインし、今日の行事はもうこれでお終いだ。

「ちょっと、第一声がそれ?」

 まだ明るさの残る外の光を取り込もうと、カーテンを開ける。それから呆れた口調で返すけれど、披露宴での笑いたくなる衝動を思い出し、今度はこらえることなくぷはっと笑いだしてしまった。

「ほらやっぱりそっちだって、笑いたいの我慢してた」
「だって思い出させるからでしょ」

 そう言い合って二人で笑い転げ、ふと目があって笑いが止んだ。頬と頬が触れ合って、ごく自然に抱き合って、キスをする。唇を重ねるだけじゃ全然足りなくて、すぐに舌が絡み合った。

「……ようやく心置きなく、化粧が崩せる」

 舌がだるくなるまで堪能してからゆっくりと離すと、彼に口元の唾液を指で拭われ、そう言われる。

 うーん。それはそれで引っ掛かるな。と眉が寄ったところでお尻を掴まれ、やわやわと揉まれた。

「堪能したい。全部」

 吐息が熱い。ドレス越しに合わさった下半身がすでに彼の状態を教えてきて、私の体も火照ってくる。愛したい。愛されたい。私だってくまなくこの人を堪能したい。

「ね、ドレス脱がして」

 耳たぶを軽く(かじ)って、吐息混じりにそうお願いした。

「了解」

 そう答える彼の声が艶を帯びていて、ドキドキする。後ろに回り込まれ、首元に唇の感触とそれからペロリと舐められる感触がした。これが二人の始まりの合図。

「ふっ」

 思わず息が漏れる。背中のファスナーがゆっくりと降ろされると、そのままドレスが足元に脱ぎ降ろされた。ハンガーに吊るさなくてはと思うのに背後から覆いかぶされ、身動きが取れない。

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