【書籍化に伴い冒頭のみ公開】クールな御曹司の溺愛ペット
「夏菜ぁ、買い物付き合って」
仕事帰りの夏菜を捕まえて、私は文句を言った。
「ねえ、夏菜の家、塚本屋だなんて聞いてないんですけど。まさかそんなお嬢様だなんて知らなかったよ」
「まあ、言ってなかったからねぇ」
「そうならそうって言ってよ。今日出勤して本当にびっくりしたんだから。お父さんが社長でお兄さんが副社長って、もう凄すぎでしょ!」
「そうかな?」
「そうだよ!まさか大企業で働けるなんて思ってもみなかった」
「でもお兄の部下なんて絶対嫌じゃん。冷徹無慈悲にこき使われるだけよ」
「ちょっとちょっと、それを紹介したのは夏菜じゃないの……」
吐き捨てるように言う夏菜に思わず苦笑いだ。少なくとも、今のところ冷徹無慈悲にこき使われてはいない。
「一成さん優しいよ」
「ほう。じゃあその優しいエピソードを聞こうではないか」
夏菜は疑いの眼差しで私を見る。
そうだなぁと今日あったことを思い返してみると、唐突に躓いて転びそうになった私を支えてくれたり、可愛いって言ってくれたり、頭を撫でてくれたり……。
あれ?
優しいっていうか、恥ずかしいエピソードばかりなんですけど。