【書籍化に伴い冒頭のみ公開】クールな御曹司の溺愛ペット
「どうかしたか?」

ふと声をかけられて視線を上げる。こちらにも、朝と何ら変わらない凛とした姿の一成さんが怪訝な表情で私を見ていた。

「いえ、あの……服装って、時東さんみたいなスーツを着たらいいでしょうか」

「服装?別にこだわらないが?」

「いや、こだわりとかではなく……」

「人前に出て恥ずかしくない格好なら何でもいい」

だからそれが難しいんだってば。いっそのこと制服でもあればいいのに。

「千咲は可愛いからなんでも似合うよ」

「ぐっ……!」

思わず耳を疑った。
なんか、さらりとすごいことを言われた気がする。けれど一成さんはまったくもって気にしていない様子。

可愛いだなんて言われ慣れてない。
そう、慣れていないだけだから過剰に反応してしまっただけよ。

はー、落ち着け私。
考えれば考えるほど動揺が顔に出そうになって、慌てて顔を伏せた。

なのに一成さんは私の頭を優しく撫でて、「お疲れ様」と一言、副社長室へ入っていった。

おかしい。
一成さんってあんな人だったっけ?
もっとクールでツンツンしていた気が……。あ、いや、でも会えば優しく話しかけてくれた気もするけど。

私はそっと頭に触れる。

撫でられた部分が熱をもって、しばらく顔を上げることができなかった。
< 13 / 20 >

この作品をシェア

pagetop