クールな御曹司の溺愛ペット【続編完結しました】
はあ、と息を吐くとお姉ちゃんが殊更心配そうな顔をした。
慌てて私は首を横に振る。
「なんでもないよ。それよりお姉ちゃん、仕事辞めるってこと?」
「うん。ついていくには辞めるしかないから」
「そっかぁ。でもなんかもったいないね。せっかく大手に就職できたのに」
「そうかな?別に私は会社にこだわってなかったもの。親がうるさいから頑張って入っただけなのよ。好きな人と一緒にいられることの方が幸せだわ」
「お姉ちゃん惚気てる?」
ニヤニヤといやらしく笑うと、「なっ、ちがっ……」とお姉ちゃんはみるみると頬を染めた。そんな姿さえもいじらしい。きっと大切にされているんだろうなと私の妄想が捗って仕方ない。
「そ、そんなことより、千咲は仕事順調なの?」
「えっ?私?」
「塚本屋で働いているんでしょう?」
「ああ、まあそうなんだけど、派遣社員だよ」
「派遣でもなんでも、千咲だって大手で働いてるんだからすごいよ」
ぐっと拳を握ってうんうんと頷くお姉ちゃん。お姉ちゃんにそう言われると少しだけ自信が湧いてくる。派遣社員だからって卑下する必要はないのかなって。
「でも副社長の秘書だからさ、いつも緊張する」
「副社長ってあのイケメンで有名な?」
「確かにイケメンだけど、そんなに有名なの?」
「やだ、知らないの?よくビジネス雑誌に載ってるよ」
と、お姉ちゃんは本棚をゴソゴソし、一冊のビジネス誌を取り出してペラペラとめくった。
「ほら、ここ」と見せられたページには紛れもなく一成さんが載っていて、そのかっこよさにドキリとする。
三つ揃えのグレーのスーツ。ネクタイに手を添え流した目線はニコリともしていないのに大人の魅力たっぷりで、これがビジネス誌だということを忘れてしまいそうなほど。