恋がはじまる日
 ザアっと、一際強い風が吹いた。
 落ち葉が駆けっこしているようにくるくると走り回って、私の横を駆け抜けていく。


 何故だか急に藤宮くんと出会ってから今までのことが思い出されて、脳裏をよぎっていく。

 春に曲がり角で出会ったこと。勉強を教えてもらったこと。傘に入れてくれたこと。お祭りで手を引いてくれたこと。文化祭で怪我を気遣ってくれたこと。さっきだって。


 彼と過ごしてきた日々が、私の中でこんなにも鮮やかに輝いている。


 どくん、どくん。


 自分の心臓がうるさいくらい脈打っているのが分かる。


 ああ、そっか、と私は思った。



 私、藤宮くんのこと…好き、なんだ。



 気付いてしまった。
 恋を知らなかった私でも、この気持ちが、彼を愛おしく思う気持ちなのだとわかる。

 だって、全然違うよ、家族や友達、先輩や椿に思う気持ちとは。
 みんな大切、みんな大好き。

 でも、藤宮くんに想うこの気持ちは、言葉では全然うまく言えないの。
 愛しくて嬉しくて、でもなんだか苦しいくらい切ない。

 これが恋。これが人を好きになるってこと?



 芽生えてしまった初めての気持ち。

 私はこれからこの気持ちと、向き合っていくことになるのだ。


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