恋がはじまる日
 あれ、なんだか機嫌悪いかな?

 普段よりも言い方に棘がある気がした。私、やっぱり邪魔しちゃったかな。
 ついいつものようにむきになって言い返してしまったけれど、もう少し可愛げのある返答はできなかったものか…。

 私が少し後悔し始めていると、彼の視線が不意に下へと落ちた。自然と私もその先を目で追う。彼の視線の先は、私の足元だった。
 じっと見られている恥ずかしさに耐えられなくなり、おずおずと口を開く。


「な、なに?」

「怪我、もう平気なのか?」

「え?怪我?」


 私がぽかんとして聞き返すと、彼も不思議そうに首を傾げた。


「体育祭で怪我してただろ。もう忘れたのか?佐藤は元気だけが取り柄みたいなもんだしな、忘れるくらいなら怪我はもう大丈夫なんだろ」

「元気だけ、ってなによ!」


 そういえば藤宮くんに言われるまで、足首の痛みのことすっかり忘れてた。それくらい今のことにいっぱいいっぱいで。


「…その説はお世話になりました…」

「別に。お礼を言われたかったわけじゃない」

「うん…ふふっ」


 素直じゃないなぁ。

 私はこういう不器用で不愛想で素直じゃなくて、でも優しくてなんだか一緒にいて安心できる、そんな藤宮くんが好きなんだよなぁ。本当、不思議だ。


「何一人で笑ってるんだよ」

「ええ!笑ってたかな!?」

「もう戻るぞ」

「うん!」
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