恋がはじまる日

「椿、どうしたの?」


 いつもならさっさと部活に行くので、まだ鞄が残っていることに気が付かなかった。


「先生に荷物運び手伝わされてた。すげー量あってさぁ、超疲れた~」


 そう言いながら首やら肩やらを回す椿。


「それは大変だったね、お疲れ様」


 彼は話ながら自分の席へと戻ってくると、机の中の教科書やノートを適当に鞄に入れ始めた。そしてこちらをくるりと振り返る。


「ていうか、美音は?残ってなにしてんの?」


「えっ私?」


 急に問いかけられて、内心どきっとする。


 何て答えたらいいのだろう。正直に椿に話すべき、だよね。まだ心の準備ができていなくて、ちょっと恥ずかしい。


 彼も文化祭の折り、とある女の子に片想いをしていると話してくれた。私も正直に話した方がいいよね。


 急に黙ってしまった私をどう思ったのか、椿はものすごく不安そうな顔をした。


「美音?」


「えっと、」


 何か言わなきゃ。


 椿から目をそらすと、必然的に自分の机の上の鞄に目がいく。ふと視線を落とした先、鞄の中にはチョコブラウニーが入った包みが二つ並んでいた。


 ん?二つ?


「あ!」


 大声を上げた私に、椿はびくっと身体をふるわせた。


「びっくりした、なに?」


「椿、これ!」


 私は鞄から、赤のリボンで結ばれたチョコブラウニーの包みを差し出した。


「ハッピーバレンタイン!」


 彼は目を丸くして、手の中の包みを眺めた。


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