恋がはじまる日

「えっと、それは、…」
「?」

 彼はどう言おうか思案しているようだったが、覚悟を決めたように息を大きく吸い込んだ。


「美音、それは藤宮に咄嗟に言っただけの嘘なんだ。本当は美音のお母さんに頼まれてなんかなくて、えと、」

 そこまで言って、椿は私をまっすぐに見つめた。


「俺が美音のこと気になって、ただ心配してるだけ。危ない目にあってほしくないし、嫌な思いもしてほしくない。だから、」

 椿が私の手をぎゅっと握る。突然のことに少しびっくりしてしまう。


「なんでも俺に話してほしい。いつでも俺は美音の味方だし、困ったことがあったらすぐ助けに行く!」

 真剣にこんなことを言ってくれるのは初めてだった。握られた手から温かな熱を感じる。

 あれ、椿ってこんなに手大きかったっけ?
 小さい頃から一緒にいるのに、全然気が付かなかった。私よりも一回りも二回りも大きくて、いつからこんなに男の子の手になっていたんだろう。


「うん!ありがとう!私だっていつでも椿の味方だよ!なんでも相談してほしい。幼なじみなんだから」

 そう微笑むと何故か、彼は握っていた手に力を込めた。


「いたっ、椿?」

「幼なじみとか、そういうんじゃなくて、俺は、…俺は、美音のこと、」


 椿が何かを言いかけた時、ぎしっと廊下で床の軋む音がした。
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