恋がはじまる日

「うん?いいよ」


 椿は私の隣に腰掛け、ベッドに背を預ける。


「昨日のことなんだけどさ、」

「うん」


 椿がやけに真剣に聞いてくるので、私は少し緊張して姿勢を正した。


「昨日サッカー部の部長と帰るって言ってたのに、今朝藤宮にお礼言ってただろ。あれなんだったのかな、って」

「なんだ、そのこと?」


 真剣に聞いてくるのでなにかと思ってしまった。
 私は昨日の下校時のことを話して聞かせた。先輩と帰るはずだったけれど、パスケースを探しに学校へ戻ったこと。折り畳み傘を家に忘れて、藤宮くんに傘に入れてもらって帰ったこと。


「へぇー藤宮が?」

「うん!案外優しいところあるんだよ」


 椿は一瞬驚いたというような顔をしたが、すぐに眉間に皺を寄せた。


「藤宮、あいつなに考えてんだろ…。変なことされなかった?」

「変なことって?」

「あ、いや。えっと、今朝その話聞こうとしたら藤宮に邪魔されたからさー。無事帰れたならいいんだ」

「うん。あ、そうだ」


 今朝のことと言えば、私も椿に聞きたいことがあったのだ。


「ねぇ椿、私のことよく心配してくれてるのって、お母さんから頼まれてたの?初めて聞いたんだけど」

「えっ」


 そう私が尋ねると椿は困ったように目を泳がせた。私、なにかまずいこと聞いた?
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