黒い龍は小さな華を溺愛する。


「さっきどうだったの?私が花の水やりにいってる間……」


「いや、なんも話してない。ただ窓の外じーっと見てるだけで」


「……そうなんだ」


記憶がハッキリとするのも一時的なものなのかな。


それでも、〝よろしくお願いします〟と言った時の顔はしっかりとしていたと思う。


「でも……最後にああやって言ってもらえただけで十分だ」


少し照れたように、でもどこか救われた顔で。

私は黙って常盤くんの手を握る。


「うん……良い方向にはいってるはずだよ」


エレベーターを待つ間、常盤くんがふいに視線を落とした。


「……なぁ」


低くて、いつもより少し弱い声。


「今まで俺の事覚えてなくても平気だって思ってたんだけど……」


ほんの一瞬、指先に力がこもるのがわかった。


「うん……」


「本当は、少しだけ寂しかったのかもしんねぇ」


その言葉はとても小さくて。

でも誰にも見せたことのない本音だった。



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