いつか、君が思い出す季節


走って走って、ようやく辿り着いた高架下に、瀬川はいた。
大方の荷物は輸送なのか、スクバを背負い、マフラーに顔を埋めている瀬川は、私が思っていたよりずっと知らない人に見えた。
私は弾む息を押し殺しながら、一歩、一歩、瀬川に近づく。
その足が震えていた。

「せがわ」

あの日瀬川が私の名前を呼んだように、何度も呼んだその名を唇に乗せる。
たった3文字が、どこまでも続く永遠に思えた。

瀬川は弾かれたように顔を上げる。
そして私の姿を認めると、目を伏せ、なんとも言えない表情で苦笑した。

「メロドラかよ」
「……安っぽいからいいんでしょ」
「HRは?」
「サボった。瀬川と一緒」
「俺サボってねぇから。お前サボり認定ガバガバ過ぎ」

瀬川が、私のために場所を少し譲る。
それが隣に並ぶことを赦されたような気がして、息の仕方を忘れてしまうくらいに胸が詰まった。

言わなきゃいけないことも、伝えたいことも、両手で余るほど沢山あった。
でも、瀬川を前にすると何も言い出せない。
どんな言葉も、瀬川の言葉には敵わないような気がしてしまうのだ。

口を開きかけて、逡巡して、繰り返すうちに時間だけが過ぎていく。
やがて遠くの街から瀬川を攫いにやって来たバスが、酸っぱい排気ガスを吐き出して私たちの前に止まった。
乗務員が降りてくるのと同時に、並んでいた人たちの列が動き出す。
< 21 / 25 >

この作品をシェア

pagetop