いつか、君が思い出す季節
「じゃあ」
「……うん」
「元気で」
「……うん」

瀬川はバスの乗り口に向かって歩き出す。
広い背中には、変わらないぺしゃんこのスクバがあった。
それが目に入った刹那、私は走馬灯のように駆け巡る記憶を、手放すことなどできないのだと悟った。

瀬川とふざけ合ったこと。
一緒に怒られたこと。
並んで歩いたこと。
背中合わせで居られたこと。
好きだと言われたこと。
胸が潰れそうに苦しかったこと。
まだ隣に居たいと願ったこと。
瀬川を想って走ったこと。

全部、(ここ)に残ってる。
忘れたくないと、私の全てが叫んでいる。

「瀬川!」

瀬川が振り返った。
白い息が、瀬川の輪郭を暈す。

「私、ちゃんと大切だった。瀬川と過ごした時間も、瀬川のことも。思い出すだけで、もう大丈夫だって思えるくらい」

何よりも、君との日々が支えだった。
私の世界を、君が彩ってくれた。
揺れる息を吸って、私はもう一度その名を呼ぶ。

「瀬川、合格おめでとう」
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