愚かな男を愛したセリーナ
 酒場で酔う男のことばなど、誰も聞いていない。筋肉質の巨体を机に突っ伏して呻いているセドリックの背中を撫でていたセリーナは、その手を止めた。セドリックと結婚してから二年、酒に弱い彼の背中をずっとなでて来た。



*****


 そう、二年前。魔術師として駆け出しのセリーナと一緒にダンジョンに入ったセドリックは、予想外に強い魔獣と遭遇した。その時、魔獣に襲われるセリーナを庇って重症を負った。

「セドリック! なんで私なんか庇うのっ」
「セリーナ、ひよっこのお前を守らないで、剣士になんてなれるか」
「ごめんなさい、セドリック、死なないで!」
「い、いいからギルドに戻るぞ。あそこには治療師もいる。なぁに、このくらいの傷、ちょっと休めば……」
「セドリック!」

 傷を負い気を失ったセドリックを、セリーナは身体強化の魔法を自分にかけて運ぶ。ギルドに到着した後、すぐに治療を受けたセドリックは一命を留めた。

「セリーナ、君も顔に怪我をしたんだ。もう休んだ方がいい、無理をすると痕が残る」
「ギルド長、でも……」
「セドリックの看病は、ギルドのスタッフで見ることになっている。君の妹のアイラもいることだから、彼女に頑張ってもらうよ」
「アイラ、ですか」

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