青時雨

 暴風のような悠介さんの行為が通り過ぎた後、私は泣いていた。
 睦み合いからはほど遠い行為を、悠介さんは私に叩きつけた。

 私は苦痛や恐怖よりも、驚きに身体が(すく)んで、涙を止められなかった。

──どうして、悠介さん?

 私は、ベッドに私を抑えつける悠介さんの顔を、涙をいっぱい溜めた目で見詰めた。

──何がそんなに、あなたを怒らせたの? 何がそんなに、あなたを傷つけたの?

 悠介さんは今は動きを止めて、涙を流している私を、じっと見詰めている。

──奥様のことに触れられることが、そんなに嫌だったの? それとも、私が奥様のことに触れるのは、そんなにいけないことだったの……?

 悠介さんは何も言わずに、私のことを見詰めている。

 わからない。
 どちらが本当の悠介さんなんだろう。
 私を甘く蕩けさせる一方で、氷のように冷たく凍えさせる──。

「純さん、ごめんなさい」

 ぽつりと、悠介さんが言った。

「驚かせてしまいましたね。僕のことが、嫌いになりましたか?」

「……」

「こんな仕打ちをして、言えた義理ではありませんが、僕はあなたに傍にいてほしい。もう二度とこんなふうに、あなたを傷つけないと誓いますから」

 悠介さんの瞳は、驚くくらい弱々しい色を浮かべていた。まるで、悪戯(いたずら)を叱られた子供のように。

 悠介さんは、私を抑えつけていた手を離した。

 私は自由になった手で、悠介さんの日焼けした精悍な頬を、そっと撫でた。

 また涙が溢れて、私の頬を伝って落ちた。
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