やさしい嘘のその先に
***

 しばし後、
美千花(みちか)さんは私とご主人の事、どう思ってるの?」

 逆に問われて、美千花は言葉に詰まって。

「わ、私は……特に何とも」
 ――思ってません。

 本当は凄く凄く気になっている癖に、それを彼女の前で認めてしまったら負けな気がして。

 美千花は一生懸命虚勢を張った。

 なのに稀更(きさら)は、そんな気持ちなんてお見通しみたいに「嘘はダメ」と美千花の言葉を(さえぎ)るのだ。

 そればかりか――。


「――だってほら、いつだったかな? 私が()と喫茶店にいたの、貴女、見てたでしょう?」

 パイプ椅子を引き寄せてそこに腰掛けた稀更が、美千花と視線の高さを合わせてじっと見つめてくるから。

 美千花はキュウッと胃の辺りが痛むのを感じた。

 今の稀更は、律顕(りつあき)の事を〝律〟と呼ぶ事を隠す気すらないらしい。


 蝶子(ちょうこ)とランチしたあの日、商店街で彼らを偶然見かけてしまった事は、美千花の心の中だけに仕舞ったはずだった。

 律顕にでさえ問えないままに今日まで来てしまったパンドラの箱。

 それをいとも簡単にこじ開けて、稀更はその上で「本当に何とも思ってないの?」と再度問いかけてくる。
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