ツインソウル
 アロマサロン『涼』に入ると春らしく甘い花の香りが漂っている。(ナチュラルで落ち着くのがいいのよね)

由香里は受付のベルを鳴らした。

「はーい」

 張りのある若くて自信のある声が聞こえ、オーナー兼アロマテラピストの涼香がやってくる。

「今日はいかがしましょう?」
「えーっと。今日は占いをしてもらいたくて。予約してないんだけど大丈夫そう?」
「今日はまだ大丈夫ですよ」
「今日は、って混んでるのかな。普段」
「占い師の吉野さん、りこ――あっ家庭の事情でね、実家に帰るんですって。だから今月来月でここも占いコーナーなくなっちゃうんです」
「残念ですね」
「いい占い師さんでリピーターも増えてて、これからーって感じなんだけどね。吉野さんほんとは今月中にでも実家に帰りたかったみたいだけど、リピーターさんにも挨拶しておきたいからって一ヶ月余分に残ってくれるのよ」

 二人して残念がっていると緋沙子がやってきた。
「さっそくですけど由香里さん観て差し上げて」
「あ、私、佐々木になりました」

 恥ずかしそうな由香里は思わせぶりな表情で「占いばっちりでしたよ」 と明るく言った。

「まあじゃ登録のお名前変更しておきますね」
「こちらへどうぞ」

 緋沙子は由香里を占いのブースへ促して席に着いた。
「今日はどんなご相談ですか?」
「おかげさまで今、生活が落ち着いてます」
「よかったです」
「それで元主人のことなんです。彼、気になる人がいるみたいなんですけど上手くいくか観てほしいんです。自分だけ幸せになってる気がして――都合いいですよね。自分でも恥ずかしいけど智樹にも幸せになってもらいたくて」
「みんなが幸せだといいと思います。さっそく占ってみますね」

 緋沙子は七十八枚のタロットカードを混ぜ始めた。由香里はその手つきを祈るような思いで見つめていた。

「気になる人に対して欲求らしいものは出ていませんね。好きでも、その人を欲しいって感じではないみたい。調和を大事にしているというか」
「智樹らしいなあ」
「お相手の方も気づかないくらいの好意ですね。でも相手の方も見守るような気持ちみたいです。交流は楽しいみたい」

 緋沙子が指をさすカードの絵柄には薄いブルーのローブを着た聡明な女性が描かれていた。
偶然だろうか。今日の緋沙子は薄いブルーのワンピースでこのカードの女性そっくりだ。

「なんかプラトニックって感じですかね。」
「このお二人は今のままで満足してるみたいだし動こうとしませんね。良くも悪くも思いやりがあって押しが弱いみたい」

 優しく微笑みながら言う緋沙子に由香里はもどかしくなり、なんとかしたいと思い始めた。

「この二人どうなります?」
「周りの協力で結ばれるかもしれません。この二人は結ばれるとすごく強く結びつきそうですけどね」
「なんかよくわかりました」
「ほかに何かありますか?一応来月いっぱいでここを離れることにしましたので、ご心配なことがありましたら今のうちにご相談くださいね」
「涼香さんに聞きました。あの。お別れ会したいんですけどダメですか?」
「お気遣いなく」
「ご迷惑です?せっかく知り合えたのにこのままここでサヨナラってのも、寂しいじゃないですか。夜って忙しいです?」
「今はまだそうでもないですけど」
「今週の金曜日の夕方六時からってどうです?」
「と、突然ですね」
「善は急げですよ。場所は図書館裏のプクプクとか」
「ピザの。うちの近所です」
「予約しときますから。じゃ、金曜日に。ありがとうございました」
「あ、こちらこそ」

 由香里はにっこり笑って立ち上がった。占いコーナーを出て受付に行った。涼香が声を掛けてくる。

「どうでした?」
「ばっちりです」

 新しい会員カードを受け取って由香里はにっこり笑った。

「私もいまのうちに占ってもらっとかなきゃ」

 涼香は少し寂しそうな笑顔を見せた。

「今度またアロマに来ますね」

 なんとなくしんみりした気持ちになって由香里はサロンを出て行った。

 緋沙子は由香里のペースに乗せられてあっという間に進んでしまった話を反芻していた。(びっくりしたけど、そういえば弘明以外とこっちでディナーってしたことなかった)
なんだか久しぶりの一人の身軽さを感じた。

これからのことを自分で占ってみようかとタロットカードを手にもってみた。

しかし自分にとって都合の良い結果、もしくは不安になる結果しか出ないであろうと思い踏みとどまった。(自分のことって当たらないのよね)

 一人で過ごす夜の寂しさに慣れ始めてはいたが、すこし気晴らしになりそうな誘いに段々気持ちが明るくなってくる。(イタリアンか)

トマトのことが頭に浮かび、赤いワンピースのことを思い出したのでそれを着ていこうと決めてから席を立ってロビーに向かった。
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