ツインソウル
 四国に帰ってきた緋沙子は一度実家に戻ったが、保育士として保育園に勤め一人暮らしを始めた。
 占いはまた一から勉強を始めることにした。
智樹とは連絡先を交換してはいたがなんとなく連絡していない。
 お互いに存在しているということだけで満足していて幸せな気持ちで日々過ごしている。

 今日は日曜日なので近所の図書館へと本を借りにくことにした。(そろそろ夏休みだな)

まぶしい陽射しを受けながら目を細めて顔を上げると、すっと隣を菅笠を深くかぶった白衣の遍路姿の男が通る。(暑いのにご苦労様です)

 緋沙子はお接待という巡礼者への施しをしようと、バッグから凍らせていたペットボトルのお茶を取り出した。

 男に駆け寄ってペットボトルを差し出しながら菅笠の中の顔を見上げる。
「あ……」

 それは優しい目をした智樹だった。

「お久しぶりですね」

 少し日焼けをして無精ひげが伸び精悍さを増している。

「ほんとに……。まさかこんなところで会えるなんて」

 ペットボトルを無意識に差し出すと智樹は納め札を緋沙子に手渡した。

「ちょうど休憩しようかと思ってたんです」
「急ぎじゃなかったら道の向こうに図書館がありますから少しお話ししませんか?」
「今日はもう一か所お参りして終わる予定ですから」

 緋沙子は図書館へ智樹を連れ立った。

「静かな図書館ですね」

 二人は簡素な休憩コーナーのベンチに座った。

「規模が小さいのであまり人が来ないんですよ」
「なるほど」
「奥田さん、歩き遍路をしてるんですか?一番から?」

「吉野さんが四国に帰ってからなんとなくやってみたくなってね。少し調べてから出発しました。会えるとは思わなかったけど」
「びっくりしましたよ。でもいいですね。私もいつかやってみたいと思ってます。けどまだまだ先かな。何か願ってます?」
「特に何か願掛けはしてないです。しいて言えばまた新しい自分を発見したいってことかな。今度は自分一人で」

 緋沙子も同じ気持ちだった。

二人が抱き合った夜を思い出す。
あの時はお互いがお互いの存在や意識を引き上げて新たな自分を発見し歓びに満ちた。

「今夜のお宿はどこですか?よかったら私のところにでも」
「宿坊に泊まろうかと。巡礼中なのでお邪魔するのはよしますよ」

 爽やかに智樹は笑った。

「ですよね」

 緋沙子もつられて笑った。

「また会いたいです。あれから私も自由になって強くなって元気になった気がするんです。奥田さんのおかげ」

 智樹は頬を染めている緋沙子の手首にふと目をやると腕時計はもうなかった。

「僕も自由ですよ。このたびが終わったら四国のどこかで会いませんか?もう香川県だけなので一週間くらい先かな」

「じゃあ。小豆島行きませんか?合わせて夏季休暇とりますから」
「前に話してましたね。そうしましょうか」

 二人は約束を交わして別れた。

 きっと小豆島でも楽しい時間を過ごせるだろう。

その後のことはわからない。

しかし緋沙子に不安はなかった。

やっと出会えた自分の半身が存在していることを知れた歓びは、抱き合う行為がなくとも大きな幸福だった。

 いつか再びまた一つになるその時までこの幸福感は続くだろうと、緋沙子は笑んで青い遠くの空の彼方へ思いを馳せた。
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