Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 もし野盗だとしたら、私達にも危険が及ぶかもしれない。私は不安げな顔でスキルドの手を握った。

「俺が様子を見てくる。お前たちは待ってろ」

 兄は恐れることもなく、1人でその一団の元へと速足で向かっていった。

「ヴィレントに任せておけば、大丈夫さ」

 不安がる私を見て、スキルドが言った。
 見送るスキルドの顔にもわずかに緊張が見えたが、私のようにこちらに危害が及ぶ心配などはしていないようだった。
 シルフィに至っては安心しきった顔で、むしろどこか得意げな表情まで浮かべて、兄を見守っていた。
 兄が一団と接触。この場所からは話の内容までは聞き取れなかったが、相手が険悪に何かを叫んでいることはわかった。
 そして遂に、兄が剣を抜いた。
 いつも兄は腰に剣を下げていたが、実際に抜いたところを私が見たのは、これが初めてだった。
 私は、思わずスキルドにしがみ付き、服を掴んだ。
 一団は、囲まれていた2人組を無視して一斉に兄に襲い掛かった。その数は10人以上はいたはずだ。
 兄は襲い掛かる相手を次々と斬り伏せていった。
 素人同然の私にも、兄が只者ではないことがわかった。
 私は、スキルドにしがみ付きながらも目を背けることはなく、むしろ食い入るように見つめていた。
 これが、兄さん……?
 兄と相手の数人が剣を振り合いすれ違うと、相手だけが倒れ、兄は何事もなく続けて剣を振るう。
 何人が襲い掛かっても、兄の動きが鈍ることはない。相手の数だけがどんどん減っていった。
 男達は遂に残り2人になると、かなわないとみて逃げ出した。
 兄はそれらも逃がさない。1人は背中から斬りつけられ、躓いて逃げ損なったもう1人は必死で命乞いするも、あっさり斬り捨てられた。
 あっという間だった。
 その時の兄は、まるで本当の悪魔のような、強さ、恐ろしさだった。

「……終わったみたいね」

 得意げだったはずのシルフィまで、若干ぽかんとした表情になっていた。
 以前にスキルド達が言っていた、兄に助けられたという話、スキルドが兄に憧れているという話など、この時、私は初めて実感できた気がした。
 こんな人に助けられたら、こんな強さに魅せられたら。
 私も、あの地獄の5年間がなければ、素直に感嘆し、あるいは自慢の兄だと誇っていたかもしれない。
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