Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 兄さんを本気で怒らせたら、私など、きっと一瞬で殺される……。
 兄を敵視していた私には、そんな恐怖の感情しか浮かんでいなかった。

「敵わないな。やっぱり凄いよヴィレントは」

 呟くスキルドも、驚きとも呆れともいえない表情をしていた。



「この2人を護衛する仕事を受けた。お前らは街で待っていろ」

 合流した直後、兄からそんな言葉が出た。
 その姿は、髪が少々乱れているだけで、かすり傷一つ負っていない。
 兄は、始めから謝礼が目当てだったのだろう。ついでに仕事まで受けられて、ちょうど良かったと思っているようだ。
 兄に助けられた2人は、どちらもフードとマントで風貌を隠していた。
 そのうちの1人、背の高い方は、そのシルエットから中に鎧を着込んでいることがわかる。
 彼はベスフル王国の近衛騎士、ヴェイズと名乗った。
 もう1人は、背丈が私と同じくらい小柄な少女だった。
 彼女は自分では名乗らず、ヴェイズが紹介した。
 フェアルス・クローティス。現在のベスフル国王の娘であり、お姫様だった。
 その言葉にスキルドとシルフィは驚いたようだったが、私の中の驚きはそれ以上だったと思う。
 クローティス。私達と同じ姓。
 現ベスフル国王は、私達の叔父にあたる人だと聞いていた。
 つまり目の前の彼女は、私達と従姉妹の関係にあった。
 兄に特に動揺は見えない。事前に聞いていただけなのかもしれないが、ベスフル王宮の人間を助けようとする兄を、私は意外に思った。
 兄が両親のことで、王宮の人間を残らず恨んでいると思っていたからだ。

「ベスフルの本城が敵の襲撃を受けたんだと。姫様を砦まで逃がすために、脱出してきたそうだ」

 兄がそう説明した。

「姫を無事に砦に送り届けられたら、できる限りの報酬はお支払する」

 よろしく頼む、とヴェイズが頭を下げた。

「姫様とは他人じゃないんだ。任せてくれ」

 兄のそのセリフは、既に彼らに身分を明かしていることを示していた。
 兄の考えがよくわからなかった。
 私には、母の母国を助けたいなどという動機で兄が動いているとは思えず、真意は別にあるのだろうと考えてしまった。

「わかったわ、出発しましょ」

 シルフィが兄の手を取った。

「……街で待っていろと言ったはずだが?」
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