Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 嫌だ。
 返事をして、ネモ……お願い。
 放心状態の私は、後ろから胸ぐらを掴まれていた。
 首筋に、折れた剣を押し当てられる。

「おい!」

 兄が私を冷たい眼で睨んでいた。
 私のことなど何も気にかけていない、そういう眼だった。
 今の私に、逆らう気力など残っていない。

「2度と俺の前に姿を見せるな。わかったな」

 それだけ言うと、兄は私を放置したまま進軍して行った。
 周囲は、私達が劣勢になったあたりで部隊の士気が乱れ始めたようで、こちらの部隊は半壊状態だった。
 なおも敵の進軍を阻止しようとした勇敢な兵士は、兄にあっさり斬られた。
 敵部隊が去ると、後には殺されなかった僅かな味方兵士が残った。

「ネモ……帰ろう」

 抱き寄せて呼びかけても、彼からの返事は返ってこない。
 どうして?
 なぜ、兄は私を殺さないのか。ネモを、私の一番大切なものを奪っておいて。
 ネモがいなくなるなら、私はあそこで一緒に死んでも構わなかったのに。
 なんで? どうして?
 私を苦しめるだけ苦しめて、でも決して殺しはしない。
 兄は昔と何も変わっていない。
 私にとって兄は、付きまとう呪いのようなものなのか。
 そしてその呪いに、ネモは巻き込まれた。
 私が……私のせいで……。

「ネモ、帰ろう。私が支えてあげるから……」

 彼からの返事はない。
 だが、彼をこんなところに置き去りにはできない。
 肩を支えて引き起こそうとする。だが、上手く力が入らない。
 よろよろと立ち上がると、見かねた味方兵士が、手を貸してくれた。
 彼らの手を借りて、どうにか私は歩き出した。



 そこから、どうやって砦まで戻ったのか、あまりよく覚えていない。
 砦の訓練室、今は遺体安置所となっていたその場所に、ネモが横たわっている。
 大勢の兵士が寝かされ、ネモはその中の1つに過ぎない。
 まるで現実感がなかった。
 今回の私達の出陣は、自分から言い出したことを思い出す。
 兄との戦いも、私が承諾した。ネモは反対していた。
 私のせいなの……?
 私のせいでネモが……?

「……ごめんなさい。ごめんなさい、ネモ」

 私は寝ている彼に縋って、泣きながら何度も謝った。
 彼は答えてくれない。
 ネモは、眠っているように静かだった。
 何も言ってはくれなかった。
 私のミスだ。私の責任だ。
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